戦争あかん!ロックアクション ―戦争法・秘密法廃止!―

【戦争あかん!ロックアクション ―戦争法・秘密法廃止!― 】戦争法強行可決を認めない!戦争法・秘密法廃止へ向けて、ロックアクションはこれまでの団体名を変更、リニューアル再スタートします。

ロックアクション講演会「関東大震災朝鮮人虐殺といま」文字起こし④ 文公輝さん

戦争あかん!ロックアクション講演会(2017.11.06)
関東大震災朝鮮人虐殺といま」
~あの日、あの空の下、東京で何が起きていたのか?~

ヘイトスピーチについて」 文公輝(ムンゴンフィ)さん
NPO法人多民族共生人権教育センター)

 関東大震災の歴史をなかったことにしたいという動きとヘイトスピーチがどうつながるのか。少し補足をしたいと思います。関東大震災の歴史をなかったことにしたい動きとヘイトスピーチの動きがどう繋がるのかという話です。
 いわゆるヘイトスピーチとわれわれが認識するようなデモや街頭宣伝と言った形での不当な差別的言動、この10年間ぐらいの間ほぼ野放し。ようやく昨年1月ヘイトスピーチ条例という形で大阪市が対処しようという動きを作った。6月の段階で国がヘイトスピーチ解消法、国民の努力によってヘイトスピーチを解消しようという法律を作った。
 約10年間の間、ヘイトスピーチが野放しにされる中で誰がヘイトスピーチの活動の担い手であったのか?担い手の多くは先ほど名前が出ていた「そよ風」とか歴史修正主義の活動と極めて重複するメンバーが行い続けてきた。そこにヘイトスピーチが社会に公然と差別的言動を振りまく行為の理由というか背景があると思う。関東においては関東大震災における朝鮮人虐殺、あるいは日本社会全体において日本軍「慰安婦」の問題であるとか戦時下の動員計画によって動員された朝鮮人、いわゆる強制連行、強制労働で被害を受けた朝鮮人の問題、朝鮮半島を植民地とし日本が統治した時代に、日本がそこで行った加害の行為、そういった誰が見ても誰が聞いても否定できない歴史の現実、これは今日、西崎さんが行われたように市民運動でも発掘、調査、記録がされてきました。歴史研究者の中でも、おおむね論争は決着したはずのこと。有ったなかったのレベルはとっくに決着がついていること。その事実にケチをつけたいわけですね。その中でヘイトスピーチは利用されてきた。すなわち関東大震災のなかで言われている朝鮮人はウソつき集団、嘘つき民族と彼らは攻撃する。

 ヘイトスピーチは人間の尊厳にたいする攻撃である。ヘイトスピーチをする人間は朝鮮人、中国人のことを同じ人間として認めない。それを象徴するヘイトスピーチが「ごきぶり、蛆虫、朝鮮人」、2009年に京都初級学校を襲った在特会朝鮮学校の正門の前でこういうことを言っている。「約束というのは同じ人間同士がするもの」。朝鮮人は人間じゃないから約束なんかできない。彼らが考えている日本の進路を邪魔する過去の日本が行った加害の歴史をなかったことにするために、それを主張している朝鮮人、韓国人は人間以下、それを支援する日本人は反日であると。否定しようがない歴史的事実を否定するために民族差別、人種差別を利用してきた。過去10年間ヘイトスピーチがこの社会で果たしてきた「役割」であったのではないか。これが西崎さんの話とこの後の話をつなぐ一つ目の視点。

 二つ目の視点は、10年間野放しにしてきた。20年30年前は「良い朝鮮人も悪い朝鮮人も殺せ」どころか「朝鮮人帰れ」と公然と言おうものなら、差別的言動を行った人間というのは社会的な批判の目にさらされていくわけです。許されない行為であるという共通認識があった。それが今や路上で、インターネットで公然となされるようになってきた。差別的な特定の民族に対する蔑視、憎悪、敵意を表明することを公然と行っても一定許されるような時代に私たちは生きている。あのアメリカでさえ露骨に人種差別を行った人物は社会的地位を追われるような厳しい社会的制裁がこれまで課されてきた。今年に入っただけでもハーバード大学に入学を許可された10名の新入生がフェイスブックを使って人種差別的な投稿を行ってきたということが、入学決定後に明らかになって、入学を取り消された。また、ある自動車レースで日本人レーサーが優勝したときに「日本人が優勝するのは許せない」と書いた記者は、そのことが理由となって解雇された。

 ところが日本では在日コリアンにたいする差別的な考え、見下し、偏見といったことを表明した地方自治体の首長、党首、政治家、文化人になんの咎めもない。公然と特定の民族にかかわる差別的な考えを表明してもほぼお咎めがない。そういう社会にしてしまった。その先はどこに?まさに94年前にもう一度向かうかどうかという瀬戸際にきているのではないか。

 なぜこういう活動をするのか?殺されないためです。94年前にもどらないために、ヘイトスピーチは許されない行為であるということをしっかりと共通認識としてこの社会に広めていく、具体的にそれができるのが法律であり、条例です。だからわれわれは大阪の鶴橋でヘイトスピーチが繰り返されてきた中から、大阪市に対して条例をつくって、ヘイトスピーチを止めてくれと要求し続けた。大阪市(当時橋下市長)がこの条例を作った背景には生野区という地で日本人住民のヘイトスピーチ何とかしてくれという声があったことが大きい。また、そのように世論を作っていった。

 在日コリアンの我々だけが条例をつくれと言っても無視される。どうすれば大阪市が動くのか。どうすれば生野区が動いて大阪市に対してこの条例が必要だと動くのか、そのためには日本人の皆さんが動いていただかなくてはいけない。連合自治会、商店会、社会福祉協議会、PTAなどに呼びかけ、そのような皆さんが生野区そして大阪市にたいしてヘイトスピーチをなくすために、行政として取り組んでほしいという声を上げるという世論を作り上げた。その結果として大阪市ヘイトスピーチ対処条例、国がヘイトスピーチ解消法をつくる半年も前に独自の条例をつくるという動きにつながっていった。

 大阪市の条例は、個人の人権を侵害し、差別の意識を生じさせると言ってます。ヘイトスピーチのもう一つの機能なんですね。ヘイトスピーチは差別を扇動する行為であるし、そのような行為をすることは社会的害悪なんですよということを大阪市は条例のなかで表明しているわけです。ここまで明確にヘイトスピーチは許されないことであると明言した自治体は大阪市が初めてなんです。たったこれだけのことでも条例を作らなければ言えなかったんですね。その立場を表明するんだといったことがこの条例の画期的な部分。

 よく言われますけども、公権力がそういった表現の自由に不当に介入する、これは危険なことではないのかというような、行政によるヘイトスピーチ条例、あるいは法に対して問題にする方、けっこうおられます。実は我々運動を進めていく中で、誰からそれを一番言われたかというと、弁護士の方です。あるいは学者の方です。平気で言われました。そんな法律で規制なんかしなくていいじゃないのと。だいたいヘイトスピーチというのは、個人を特定して誹謗中傷を行うのではないから、被害もそんなに重くないんじゃないの?ということを実際言われるんですね。そうではないでしょ。というのが我々の受けてきた実感です。

 生野区内でヘイトスピーチが繰り返されるなかで、在日コリアン1世、2世の高齢者の方が、こういう相談に来られました。介護保険を使ってヘルパーに来てほしいと。なぜヘイトスピーチ介護保険が繋がるのかわからないでしょ?“デモが来て朝鮮殺せ殺せ言われる。家の前をそのデモが通って、それから昼間家に一人でいるのが怖くなった。介護保険使ったら、日中ヘルパーが来てくれるやろ?誰か家に居ってほしいねん。”そういう感覚ですよ。「殺せ、殺せ、朝鮮人」と言われた。そういったデモが家の前を通ったということは、つまり私を殺しに来た、私のことをゴキブリ、蛆虫と言っている人たちがやって来たし、また来るかもしれない、二度と自分の家で安心して過ごすことができない。大げさではなく、そのような被害を、生野区だけ見てもコリアン住民に与えてしまったわけです。安心して外を歩けない、この感覚て、分かりますか?子どもを連れて外出するときヘイトスピーカーの活動予定をネットで調べてから外に出なければならない感覚。きわめて強い精神的被害を個人に与える行為。

 条例は何が対処すべきヘイトスピーチか結構きびしく絞り込んでいる。在日コリアン等を「社会から排除」する目的で行われているかどうか。「権利または自由を制限」「憎悪もしくは差別の意識または暴力をあおる」かどうか。態様としては相当程度侮辱し誹謗中傷、在日コリアン等の相当程度が脅威を感じる表現行為かどうか、公然性としては、不特定多数のものが知りうる状態におくような場所または方法で行われた表現行為。絞り込みがされてます。 
 この条例ができたとき息苦しさを感じるという書きこみがネット上に現れた。このような表現行為ができなくなることで息苦しさを感じるのは誰?それは路上でヘイトスピーチを行ってきた人たちです。

 もう一つは大阪市の条例ですから、地域性も大事。具体的に話をしていくのに、現在条例がどのような効果を発揮したかをみながら条例の中身をもう少し詳しく。16年7月1日付けでわれわれは被害の申し入れを行った。17件。インターネット上のヘイトスピーチ。デモとか街宣を記録した動画。条例前の動画であるがヘイトスピーチを含む動画を条例施行後も公開している行為に対し具体的な発言とか掲げているプラカード等、一つ一つを指摘しながら申出をおこなった。もちろん条例第5条(大阪市内に限定)についても限定して精査をして行っているし、市長が委嘱をしているんですけど、一定の独立性を保った、弁護士2人、研究者3人からなるヘイトスピーチ審査会でしっかりと審査が行われ、実際に大阪市長が今年の6月ですけども、審査の結果を受けてヘイトスピーチの拡散防止措置というのを行っています。動画投稿行為が行われた、動画共有サービス会社に対して動画の削除要請、大阪市長による氏名等公表。これは大きな意味を持っている。記者会見をして大阪市として絶対許さない姿勢をメディアを使って表明した。行政の長としてそのような姿勢を明確に示すということは、大きな社会的な影響を持っている。
 同時にアカウント名を公表。動画投稿を行った。条例では氏名が公表できることになっているが、ネット上なので分からなかった。少なくとも3つのアカウントの内、ダイナモという男は大阪市の条例の審査に上げられた段階から、大阪市での活動を止めているんですね。もう一人のyuu1という男、見なくなりました。アオイというのも活動しなくなっている。たかがアカウント名でも効果は上がっている。ヘイトをしてる人の特徴は、デモや街宣をやるだけで終わるのではなく、記録を撮って流すことで、共感を得ようとしているわけですけど、共感を得るためのネットというツールをこの条例によって、限定はあるが我々は奪うことができている。これはこの条例の大きな意義だと思っています。

 ただ、最初の申し出を行ってから拡散防止の措置が取られるまでは1年近くかかっている。あるいは実名をさらすということをしない限り、効果を持たないくらいに確信犯のヘイトスピーカはいます。その人たちに対しては、プロバイダにたいして大阪市が行政措置を取るにあたって個人情報等の提供を求めることができる根拠となる条例改正の課題が見えてきています。実際大阪市は来年2月の市会に、契約をしている個人の氏名等の情報を明らかにする根拠となる条例改正をしますよということで具体的な作業をやっています。仮にこの条例改正ができれば、ネット上でやられているヘイトスピーチ、今、野放しですが、これを少なくとも大阪市とか大阪市民にかかわるそれを、やめさせる大きな力になるだろうと思っています。大阪市による来年2月の条例改正は、関心をもって見守っていかなければならないし、それをしっかりと行っていただくための働きかけもしていかなければならないと思っています。さらに将来的な改正に向けての話となると、名前も顔も住所もさらしてデモや街宣をやっている人間が、数はすくないけどいるんですね、やっぱり。そういった人間はどうすれば止められるのか?

 これは今、罰則とか禁止事項がない条例を応用していきながら、その結果としての話になるんでしょうけど、将来的には私は禁止条項、なぜ禁止条項かというと、それがあることで明確に我々が民事で彼らを訴えることができるんです。罰則ていうのは、それがあることで罰金なり禁固なり。そうなるかもしれないと思った時点で、さすがに彼らは委縮をして自粛をし始めるかもしれない。彼らなりに、どういった表現行為がヘイトスピーチにあたるのかということを真剣に考えて、今も行っているデモ行進や街頭宣伝の中から、少なくとも条例に定義されているようなヘイトスピーチを止めていくかもしれない。さらに言うと、禁止条項や罰則条項があることで―もちろん、警察がデモや街頭宣伝の現場で弁士注意なんてやることは、われわれ望んでいません。大阪市の審査会、がんばってやってくれているわけですけど、それもやはり独立性、透明性という部分で言うと、市長がじかに任命するということで何らかの影響力が働くのではないかというと、まだ、不十分である―ということは、この禁止条項、罰則条項があることで、裁判、果たしてそれらの表現行為が差別的言動であるかどうかということを公正に審議していただく、そしてその公正な判例が積み重なっていくことによって、いったいどのような表現、どのような言動というものが違法な差別的言動であるのかということが、社会に定着をしていくということにつながるのではないかと思っています。

 非常にせっぱつまった状態でありますよといった前半の話と非常に悠長なこの条例の応用といった話がどう繋がるのかということですけども、悠長であるとしても我々はできたものを一つ一つ使って、そのうえに一歩ずつ前に進むしかないわけです。気が長いですけども、少なくとも私の子どもが成人するころには、もうちょっとましな条例ができるように、頑張っていきたいと思っております。ぜひ、今後とも気長に、そして飽きることなく取り組みについて注目していただいて、時にはご協力を皆さんからいただきたいなと思っております。
ぜひよろしくお願いします。